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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

≪台湾≫基隆港

           ≪八月十五日≫      -壱-

 

(1NT≒8.9円)



  午前8:00、もう台湾・基隆港に船は入っている。


 慌ててデッキに出た。


 8:00だというのに、湾内は靄につつまれ陽射しが届いてこない。


 何か異様な雰囲気の中、玉龍丸は手探りの状況で秘密工作船のように

ゆっくりと進んでいく。


 赤錆びた造船工場だろうか、まだ眠ったまま靄の中にたたずんでい

る。



  乗客たちは皆目を覚ましてデッキに駆け上がっている。


 ジッ!と息を潜めて、靄の中から薄ボンヤリと現れようとしている基

隆の湾内に目をやっている。


 初めての外国台湾、深い靄がエキゾチックな趣をかもし出してくれて

いる。


 汽笛が鳴れば、効果満点といったところだが、玉龍は静に・・・・・

波を立てることさえ許されないかのように、湾内を滑っていく。



    司馬遼太郎も基隆港についてこう語っている。


  ―港は北にひらき、港口は狭く、港内の水路は腸のように曲がって

いる。海面からいきなり山があり、山々の緑はくどいほどに濃い。


 丘の頂上まで車で登る事ができる。頂上には、航海者を見守る大観音

像が立っている。丘の頂上から、狭い水路を見下ろしていると、老台北が、

古い歌を口ずさんでいた。


 港内に、軽快そうな軍艦がつながれている。



  どうやら、現実の基隆の印象は九州の門司辺りとかわらない

ようだ。


 基隆港の岸壁のコンクリート建造物など、殺風景な港湾設備に、北原

白秋も失望していた。



  基隆港に錨を下ろすと、入国手続きの為、台湾政府から取調官

が4、5名乗船してきた。


 するとすぐ、上のラウンジに乗客全員が呼ばれた。


 ラウンジに続く廊下は、たちまち乗客たちの列でいっぱいになった。


 乗客たちにはそれぞれランディング・カード(上陸許可証)が手渡さ

れている。


 カードに記入するのだが、我々にとって一番困るのが、台湾での宿泊

施設の住所である。


 一般の旅行者は、あらかじめ宿の手配はしてくれているから良いよう

なものの、我々は常に国に入ってから、安宿を探す事がほとんどと言ってい

い。


 入国先の宿の住所が、はっきりしていないと、取調官とひと悶着ある

ことを覚悟しなくてはならない。



  廊下には絨毯が敷き詰められ、長い列はラウンジに吸い込まれ

ていた。


 緊張の面持ちで待つ時間と言うものは、早く過ぎて欲しいと望むもの

だが、遅々として進まない。


 列の進み具合からして、かなり入念に審査されているのかも知れい。


 順番が近づくにつれて、仲間の鉄臣が話し掛けてきた。


    「ねー!東川さん。ここ何て書いたん?」



  鉄臣君、今年高校を卒業したばかりの若者。


    「なー!鉄臣よ、旅をするには学割が便利だから、また学校へ      
      入りなおしたら・・・どや!まあ・・・お前じゃ大学は無理だ 
      から、もう一度高校へ入ったら!」という冗談とも無責任とも

      言える会長の言葉を真に受けて、また定時制高校に入りなおし

      た変わり者である。


 本人も真面目で、「香さん、ワイ絶対卒業するからね!」と言って笑

っているのである。


 台湾での住所は、全員”YMCA”と書くことに決定した。


 もちろん予約などしていないし、泊まるかどうかも解らないのだが。



                             *



  大きく開かれたドアには、金文字で”インペリアル・ルーム”

と書かれてある。


 内部は100帖以上あろうか、床にも絨毯が敷き詰められ、天井には

今にも落ちてきそうな、大きなシャンデリアが輝いていた。


 正面の大きなドアが、左右に開け放たれていて、部屋の左には重厚な

テーブルが三台並べて置かれている。



  そこには、それぞれ輝く勲章を胸につけた制服を着た係官が座

っている。


 他にも数人の船の従業員達が、乗客たちをテキパキと誘導しているの

が見える。


 乗客たちの列は、そのテーブルの前で止まっている。


 日本の若者だろうか?


 何か記入漏れなのか、なかなかOKが出ない。



  ネクタイをしているグループで、台湾に会社の寮があるらし

く、その寮の名前や住所を誰も知らないと言う。


    「アホやなー!真面目に書くことないのにねー!」


 と、鉄臣。


    「お前、さっきまで悩んでたんじゃないのかよ!」


    「そうやけど、今では解ってるもん。」


    「・・・・・・。」


    「他の列で良かったですね!」



  我々仲間は、彼らを尻目にスムーズに通過する事が出来た。


 ホッ!と肩の荷を下ろして外に出る。


 デッキからオフィスの二階へと踏み板が渡されてあった。


 その踏み板を渡り切った部屋でパスポートを見せ、広い部屋に入る。


 そこでは、皆荷物を下ろし、何箇所かで検査が行なわれているではな

いか。


 カメラ道具一式を持った日本人のおっさん、頼まれ物という荷物で時

間を食っている若い女性、荷物を全てひっくり返されてなかなか進まない。


その列に俺は並んでいた。


 他の列に並んだ仲間は早々と検査を通過。


 結局俺が荷物検査を終えたとき、仲間は全て出た後だった。



  二階の出口でマネーチェンジを済ませる。


 日本円から、いくらか台湾ドルに替えておかないと、何もできない事

になるからだ。


      ≪日本円5000円≒563NT(ニュータイワンドル)

         に交換≫


 近くに備えられている、無料のガイド書や地図を手に入れて、階段を

下りると仲間達が待ってくれていた。


    「遅いなー!」


    「ゴメン!ゴメン!前の女が要らんもん持ってるから、俺のせ      
       いじゃないだから。」


    「それにしても遅かったなー!」


 仲間達の中に、一足早く台湾に渡っていた和智会長が迎えに来てくれ

ていた。


 いよいよ、初めての外国台湾に上陸した。


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